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カップリングの種類と選定ポイント
カップリングの種類と選定ポイント
カップリングは、モーターや減速機と、機構側のシャフトを結ぶ軸継手であり、トルクを伝達しながらもズレを吸収する重要な機械要素です。
適切なカップリングを選定することで、機器の寿命向上、振動抑制、精度維持、メンテナンス効率が大きく向上します。
この記事では、カップリングの用途・種類・構造比較から、選定計算、構造タイプ別の選び方、取付時の注意点まで、
FA装置設計・サーボ制御を含む現場目線で詳しく解説します。
カップリングの用途と原理・役割
カップリングの役割は、単なる「回転力の伝達」だけではありません。
実務上は以下のような複数の目的を同時に果たすことが求められます。
- トルク伝達:モーターや減速機の回転力を確実に伝える
- ミスアライメントの吸収:芯ズレ(偏心、角度、軸方向)の吸収
- 衝撃吸収・振動抑制:エラストマーやベローズによる緩衝
- ねじれ剛性の確保:サーボ応答性や位置決め精度を左右
- 装置メンテナンス性の確保:クランプ型や分割式で着脱しやすく
特にサーボモーターや精密ステージでは、「ミスアライメントを吸収しつつ、高剛性を維持する」高度な性能が求められます。
使用する装置・軸レイアウト・精度要求に応じて最適なカップリングを選定することが重要です。
カップリングの種類と比較表
種類 | 許容 トルク | ねじれ 剛性 | メンテ 性 | 脱着 性 | 代表用途 |
---|---|---|---|---|---|
リジッド型 | 非常に高 | 非常に高 | ◎ | ×(割型○) | 主軸・高精度駆動 |
ジョー型 | 中 | 低〜中 | △ | ◎ | コンベア搬送 |
ベローズ型 | 中〜高 | 高 | ◎ | ○ | サーボ/XY軸 |
ディスク型 | 中〜高 | 高 | ◎ | ○ | 高速応答機構 |
オルダム型 | 低〜中 | 低 | △ | ◎ | 横ズレ吸収用途 |
スリット型 | 中 | 中 | ○ | ○ | 小型機器 |
用途別おすすめカップリング早見表
用途 | 推奨カップリング | 特長 |
---|---|---|
主軸駆動 | リジッド型 | 高精度・高剛性 |
サーボ/XY軸 | ベローズ/ディスク | 応答性・繰返し精度 |
コンベア搬送 | ジョー型 | 緩衝性・安価 |
横ズレが大きい | オルダム型 | 偏心吸収に特化 |
小型機器 | スリット型 | 軽量・柔軟吸収 |
ダブル vs ショート|構造の違いと使い分け
タイプ | 構造 | 特徴 | 適用例 |
---|---|---|---|
ショート | 1層構造(ベローズ1つ) | 全長短く高剛性 吸収量は少 | 精密位置決め装置など |
ダブル | 2層構造(ベローズ2つ) | 柔軟性高くズレ吸収大 全長が長い | モーター芯ズレが多い装置 |
カップリングの選定方法と計算式
カップリング選定時には、以下の要素を評価します:
- 必要トルク(伝達トルク)
- 回転数と慣性モーメント
- ねじれ剛性(サーボ応答性)
- 許容ミスアライメント量(偏心、角度、軸方向)
- 取り付けスペース・軸径
伝達トルクの計算式
モーターや減速機からの出力トルク は以下の式で求められます:
ここで:
:トルク [N·m]
:出力(動力)[kW]
:回転数 [min⁻¹]
ねじれ剛性の目安
ねじれ剛性が高いほど、回転時の遅れ(ねじれ量)が小さく、サーボの応答性が向上します。
ベローズ・ディスク型は 100~1000 N·m/rad 程度のねじれ剛性をもち、ジョー型は 10~100 N·m/rad 程度とされます。
ミスアライメント許容量
- 偏心許容:±0.1~0.3 mm(スリット・オルダムは大)
- 角度ズレ:±1〜3°
- 軸方向ズレ:±0.2~0.5 mm
必要条件より十分な許容範囲をもつカップリングを選定してください。
カップリング取り付け時の注意点
- 芯出し(センター合わせ):偏心は最小限に。測定ゲージ必須。
- 締付トルクの管理:クランプ型は規定トルクで締結。
- ミスアライメント過多の放置禁止:寿命低下、ねじ脱落の原因。
- キー・セットスクリューの有無確認:空転防止・軸破損防止に重要。
- 分割式/クランプ式の選択:メンテナンスや再調整の容易さを考慮。
芯ズレがあるのにリジッド型を使ったり、剛性が低い型をサーボ軸に使うと、脱調・ビビリ・精度不良の原因になります。
装置性能を引き出すためにも、構造・締結・芯出しすべての要素が重要です。
まとめ
- カップリングは単なる「つなぎ」ではなく、トルク伝達・ズレ吸収・性能安定に不可欠。
- リジッド/ベローズ/ジョー/ディスク/スリット/オルダムを理解し、装置に合わせて選定。
- 必要トルク・剛性・吸収量・脱着性・価格・構造すべてを考慮する。
- ダブル/ショートの構造違いは、装置設計段階での検討が重要。