ベルトの張力計算ガイド - FACTY合同会社

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ベルトの張力計算ガイド

ベルト張力計算ガイド|フラットベルトとタイミングベルト

本ガイドは、ベルト張力計算時に「どの式をいつ使えばよいか」を最短で理解できるように構成しました。コンベア搬送に使うフラットベルトと、動力伝達に使うタイミングベルトを対象に、式の意味→手順→代表例→実務チェックの順で解説します。単位は SI(N, kg, m, s)。

まずはここだけ覚える3式

  1. ベルト速度:プーリ直径 d[m]、回転数 n[rpm] で

        \[       v=\frac{\pi d n}{60}       \quad\text{(タイミング:}\;v=\frac{p z n}{60}\text{)}     \]

  2. 有効張力:伝達動力 P[W] と速度 v[m/s] で

        \[       T_e=\frac{P}{v}     \]

  3. 張力の関係(フラットベルトの基礎)

        \[       \frac{T_1}{T_2}=e^{\mu\theta},\qquad T_1-T_2=F,\qquad T_i=\frac{T_1+T_2}{2}     \]

    ※ここで F は必要駆動力(ベルトがワークを動かすために必要な力)です。

用語と記号(やさしい定義)

  • P:伝達したい動力 [W](モータの有効出力)
  • v:ベルト速度 [m/s](1秒で進む距離)
  • T_1, T_2:張り側/ゆるみ側のベルト張力 [N]
  • T_i:初期張力 [N](停止中でも与える「下ごしらえ」の張力)
  • \mu:ベルトとプーリの摩擦係数(すべりやすさの指標)
  • \theta:巻き付け角 [rad](ベルトがプーリに接している角度)
  • \mu_c:コンベアの摩擦係数(搬送物と滑り台など)
  • m:搬送質量 [kg]、g:9.81 m/s²

目安値

項目よく使う目安
ベルト/プーリ摩擦 \mu0.20〜0.35(ゴム×鋼)
搬送摩擦 \mu_c0.05〜0.15(ローラ支持)/0.2〜0.4(滑り台)
巻き付け角できれば ≥ 180°(最低でも ≳120° を目安)
サービス係数 K_s1.0〜1.2(定常)/1.3〜1.5(中衝撃)/1.6〜2.0(重衝撃)

フラットベルト(コンベア)の計算手順

対象:水平・定速が基本。必要に応じて「勾配」「加減速」を足し算します。

  1. 必要駆動力 F を出す(基本形:水平・定速):

        \[       F = m g \,\mu_c     \]

    勾配角 \alpha があれば m g\sin\alpha を加算、加速中は m a も加算:

        \[       F_{\text{総}} = m g(\mu_c + \sin\alpha) + m a     \]

  2. 張力比を計算:\displaystyle r=\frac{T_1}{T_2}=e^{\mu\theta}
  3. 張力分配\displaystyle T_2=\frac{F_{\text{総}}}{r-1},\; T_1=rT_2,\; T_i=\frac{T_1+T_2}{2}
  4. 軸荷重の目安\;T_1+T_2(軸受・フレーム強度の確認)
  5. ベルト幅の確認:メーカーの「許容線張力(N/mm)」で T_1 を満たす幅か確認

代表計算例(水平・定速)

項目
搬送質量50 kg
コンベア速度20 m/min = 0.333 m/s
駆動プーリ径200 mm(参考)
摩擦(搬送)\mu_c=0.30
摩擦(ベルト/プーリ)\mu=0.25
巻き付け角\theta=\pi(=180°)
  • 必要駆動力 F=50\times9.81\times0.30=\mathbf{147.2}\,{\rm N}
  • 張力比 r=e^{0.25\pi}=\mathbf{2.193}
  • 張力 T_2=\dfrac{147.2}{2.193-1}=\mathbf{123.3}\,{\rm N}, T_1=rT_2=\mathbf{270.5}\,{\rm N}
  • 初期張力 T_i=\dfrac{270.5+123.3}{2}=\mathbf{196.9}\,{\rm N}
  • (参考)軸へのトルク M\approx (T_1-T_2)\frac{d}{2}=147.2\times0.1=\mathbf{14.7}\,{\rm N\,m}
  • (軸荷重)T_1+T_2\approx\mathbf{393.8}\,{\rm N}

バリエーション(現場で足し引きするだけ)

  • 勾配 5°:追加 m g\sin5^\circ \approx 50\times9.81\times0.087=\mathbf{42.8}\,{\rm N}
  • 加速 0→0.333 m/s を 0.5 sa=0.666 → 追加 m a=\mathbf{33.3}\,{\rm N}
  • 合計すると F_{\text{総}}\approx 147.2+42.8+33.3=\mathbf{223.3}\,{\rm N}
    同じ手順で T_1,T_2,T_i を再計算(計算フローはそのまま)。

タイミングベルト(動力伝達)の計算手順

歯で噛み合うため、基本的にすべりがなく「動力から張力を逆算」します。

  1. ベルト速度:ピッチ p[mm]、駆動歯数 z

        \[       v=\frac{p z n}{60}     \]

  2. 有効張力\displaystyle T_e=\frac{P}{v}
  3. サービス係数を掛ける:\displaystyle T_1=K_s T_e,\; T_2=T_1-T_e
  4. 初期張力\displaystyle T_i=\frac{T_1+T_2}{2}
  5. トルク確認\displaystyle M=T_e\frac{d}{2}(= \displaystyle \frac{9550\,P_{\rm kW}}{n_{\rm rpm}} でも可)
  6. 幅選定:メーカーの「許容有効張力(N/幅)」または「許容動力表」で確認

代表計算例(T5, 20歯×1500 rpm, 0.75 kW)

項目
ピッチ形状T5
ベルト幅20 mm(候補)
モータ出力0.75 kW
回転数1500 rpm
駆動/従動歯数20/40
駆動ピッチ円径d=\frac{20\times5}{\pi}=31.8 mm
サービス係数K_s=1.5(中程度衝撃)
  • ベルト速度 v=\dfrac{5\times20\times1500}{60}=\mathbf{2.50}\,{\rm m/s}
  • 有効張力 T_e=\dfrac{750}{2.50}=\mathbf{300}\,{\rm N}
  • 張力 T_1=1.5\times300=\mathbf{450}\,{\rm N},\; T_2=450-300=\mathbf{150}\,{\rm N}
  • 初期張力 T_i=\dfrac{450+150}{2}=\mathbf{300}\,{\rm N}
  • トルク M=T_e\frac{d}{2}=300\times0.0159=\mathbf{4.77}\,{\rm N\,m}9550式でも同値
  • (軸荷重の目安)T_1+T_2=\mathbf{600}\,{\rm N}

張力調整の実務ポイント(初心者がつまずきやすい所)

  1. 初期張力が低い→フラットはすべり、タイミングは歯飛び/騒音→軸受・ベルト寿命低下。
  2. 測り方:テンションゲージや振動法(スマホアプリ含む)で実測。メーカー推奨値±10%を目安。
  3. 再調整:初期伸び・温度で変化するため、試運転後にもう一度張る。
  4. 巻き付け角の確保:不足時はスナバー(当てローラ)で角度を稼ぐ。
  5. 噛合歯数:最低 6 歯目安(仕様に従う)。プーリ径が小さすぎると寿命低下。

コピペ用:式まとめ(単位つき)

  • 速度(直径):\displaystyle v=\frac{\pi d n}{60}\;\,[{\rm m/s}]
  • 速度(ピッチ):\displaystyle v=\frac{p z n}{60}\;\,[{\rm m/s}]
  • 有効張力:\displaystyle T_e=\frac{P}{v}\;\,[{\rm N}]
  • フラット張力比:\displaystyle r=e^{\mu\theta}, \displaystyle T_2=\frac{F_{\text{総}}}{r-1}, \displaystyle T_1=rT_2, \displaystyle T_i=\frac{T_1+T_2}{2}
  • 必要駆動力(水平/勾配/加速):\displaystyle F_{\text{総}}=m g(\mu_c+\sin\alpha)+m a
  • トルク:\displaystyle M=T_e\frac{d}{2}=\frac{9550\,P_{\rm kW}}{n_{\rm rpm}}\;\,[{\rm N\,m}]

よくあるミスと回避法

  • T_1-T_2=F を満たしていない(フラット)→張力比と同時に必ず確認。
  • 直径 d ではなくピッチ円径を使うべき所で外径を使ってしまう(タイミング)。
  • 単位混在(mmとm、minとs)→冒頭で必ず揃える。
  • \mu(プーリ摩擦)と \mu_c(搬送摩擦)を取り違える。

まとめ|設計の流れチェックリスト

  1. 用途を決める(搬送=フラット/動力=タイミング)
  2. 速度 v と必要力/動力(F または P)を見積もる(勾配・加減速も)
  3. 式で T_1, T_2, T_i を算出(フラットは T_1-T_2=F を確認)
  4. 幅・巻き付け角・噛合歯数をメーカー表で確認
  5. 軸受荷重 T_1+T_2 とフレーム強度を確認
  6. 据付後に初期張力を実測し、試運転後に再調整
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