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圧縮バネ・引張バネの選定ガイド
圧縮バネ・引張バネの選定ガイド
圧縮バネや引張バネは、リフター機構やワークの押さえなど、工場装置における戻り動作や荷重保持の用途で頻繁に使用されます。本記事では、バネ定数・寸法・材質・寿命の基本から、実務で使える選定ポイントまでを解説します。
圧縮バネ・引張バネの基本構造
まずは代表的なバネ2種の構造を理解しましょう。
バネ寸法の基礎用語
バネの基本寸法を以下に示します。寸法の選定はスペースや応力条件に密接に関係します。
- 自由長(L0):バネに荷重がかかっていない状態の長さ
- 線径(d):バネ材の太さ
- 外径(D):コイルの外側直径
- 巻数(n):有効なコイルの数
材質と表面処理の選び方
使用環境やコストにより材質・表面処理を選定します。
材質 | 特徴 | 使用例 |
---|---|---|
SUS304 | 耐食性に優れる/非磁性 | 食品装置、医療機器 |
ピアノ線(SWP-B) | 高強度/安価/錆に弱い | 一般産業用バネ |
硬鋼線(SWC) | ピアノ線よりやや低強度/加工性○ | 汎用機械部品 |
許容応力と寿命
バネには繰り返し荷重がかかるため、許容応力を超える設計は避ける必要があります。
代表的な静的許容応力(目安):
- ピアノ線:600~800 MPa
- SUS304:500~600 MPa
また、バネの巻数や線径は応力集中に影響し、寿命(ヘタリ)を左右します。
バネ定数と荷重の関係
バネの変形量 に対する荷重
は、バネ定数
を用いて以下の式で表されます。
ここで、:荷重 [N]、
:変位量 [mm]、
:バネ定数 [N/mm] です。設計上、必要な荷重とストロークが決まれば、バネ定数は次のように逆算できます。
引張コイルばねの設計式とバネ定数
引張コイルばねも圧縮コイルばねと基本構造は同様ですが、荷重方向が「引張り」になり、フックなどで両端を引っ張る構造となります。バネ定数は圧縮ばねと同じ式で計算されますが、設計時には「初張力(初期荷重)」を考慮する必要があります。
初張力 を含めると、引張ばねの荷重-変位関係は次のように表されます:
この式から、初期変位がゼロでもある程度の張力が働くことがわかります。初張力はばね加工時に意図的に与えられる内部応力で、ばね特性表に記載されるか、別途試験で測定されます。
代表的なばね用材料と弾性定数
材料 | 記号 | 引張弾性係数 ![]() | 横弾性係数 ![]() |
---|---|---|---|
ピアノ線 | SWP-B | 206 | 81 |
硬鋼線 | SWC | 200 | 80 |
ステンレス鋼線 | SUS304-WPB | 193 | 77 |
以上の物性値は常温(20℃前後)を前提としたJIS B 2704 などの参考値です。
具体的なバネ選定例
以下の条件でバネを選定します:
- 用途:押しバネ(リフター用)
- 使用荷重:10N
- ストローク:20mm
- 自由長:50mm以下
必要なバネ定数は以下のとおりです。
バネカタログより以下の仕様を満たす製品を選定:
- バネ定数:0.5 N/mm
- 自由長:45mm
- 外径:10mm以下
- 材質:SUS304(錆対策)
まとめ
バネ選定では、必要な荷重とストロークからバネ定数を導き出し、寸法・材質・応力の条件を満たすものを選びます。引張バネでは初張力の考慮も重要です。各種図解とともに、選定の基本を理解しておきましょう。