金属や樹脂の熱伝導のしくみ - FACTY合同会社

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金属や樹脂の熱伝導のしくみ

金属・樹脂の熱伝導とは?

熱伝導は金属樹脂を用いた機械設計で発熱・温度制御を左右する基礎現象であり、適切な材料選定と厚み設計により安全率と熱応答を最適化できます。

熱伝導の基本式(フーリエの法則)

定常一方向伝熱では次式で熱流束 q[W/m2]が求まります。
q = -k \dfrac{\Delta T}{L} ……フーリエの法則
総熱量 Q[W]は

    \[ Q = k A \dfrac{\Delta T}{L} \]

で表されます(k:熱伝導率[W/(m·K)]、A:伝熱面積[m2]、L:厚みまたは長さ[m])。

熱伝導と他の伝熱現象との違い

熱の移動には「熱伝導」「対流」「放射」があります。
熱伝導は物質内部の熱移動であり、対流(液体・気体の流れ)や放射(電磁波伝熱)とは異なります。
特に装置の放熱設計では複合伝熱として評価することが重要です。

代表材料の熱伝導率 k(常温〜200 ℃)

分類材料(JIS記号)熱伝導率 k
[W/(m·K)] ※25 ℃
鉄鋼一般構造用鋼 SS40050
アルミA5052138
ステンレスSUS30416
C1100 相当400
汎用樹脂ABS0.18
エンジニアリング樹脂POM(ジュラコン)0.31
高機能樹脂MCナイロン0.30

※200 ℃付近では金属の k はやや低下し、樹脂は逆に 10〜20 % 程度上昇する傾向があります。詳細は各メーカーの物性表(JIS K 7123 など)を参照してください。

材料別に見る熱伝導メカニズム

  • 金属:自由電子による熱エネルギーの高速伝播。結晶粒や合金元素の影響で k が変化。
  • 樹脂:分子鎖振動(フォノン)伝播。ガラスフィラーやカーボン添加で k 向上が可能。

樹脂材料の熱伝導性向上の工夫

近年の高放熱ニーズにより、以下のような高熱伝導樹脂が実用化されています:

  • 無機フィラー(AlN, BN, CNT等)を高濃度充填
  • 樹脂分子の配向制御による異方性導熱
  • 放熱と絶縁性を両立した材料設計(例:モータハウジング)

設計時の評価フロー

  1. 使用温度範囲(例:常温〜200 ℃)を決定
  2. 候補材料の k を選定
  3. 部品寸法 A,\,L と温度差 \Delta T を設定
  4. フーリエの法則により Q,\,q を算出
  5. 過大加熱・断熱要件と比較し、形状または材料変更で最適化

計算例 1:SS400 平板の定常伝熱

厚み L = 0.01 m、面積 A = 0.10 \times 0.10 = 0.01 m2、温度差 \Delta T = 180 K。

    \[ Q = 50 \times 0.01 \times \dfrac{180}{0.01} = 9.0 \times 10^{3}\;\text{W} \]

計算例 2:銅棒の定常伝熱

長さ L = 0.10 m、半径 5 mm の円柱(A = \pi r^{2} = 7.85 \times 10^{-5} m2)、k = 400\Delta T = 180 K

    \[ Q = 400 \times 7.85 \times 10^{-5} \times \dfrac{180}{0.10} \approx 5.65 \times 10^{1}\;\text{W} \]

熱伝導率の単位換算と注意点

表記意味換算
kcal/(m·h·℃)旧JIS単位×1.163 → W/(m·K)
Btu/(hr·ft·°F)米国表記×1.731 → W/(m·K)

※海外仕様書を参照する際は、単位換算ミスにご注意ください。

応用例:金属 vs 樹脂の熱設計比較

ケース金属(例:アルミ)樹脂(例:MCナイロン)
温度安定性が必要◎ 放熱性高い△ 熱がこもる
断熱が必要× 手が熱くなる◎ 熱伝わりにくい
軽量設計○ 軽量だが比重有◎ 非常に軽い

関連JIS・参考文献

  • JIS R 1611:ガード付き熱流計法による熱伝導率測定
  • JIS K 7123:プラスチックの熱伝導率試験方法
  • JIS Z 8703:材料熱物性推奨値(設計用)
  • 日本機械学会編:機械設計便覧、物性ハンドブック

FAQ:設計者のよくある疑問

  • Q: 金属で最も熱伝導率が高いのは?
    A: 純銅(C1100)で約400 W/(m·K)。
  • Q: 樹脂で高熱伝導なものは?
    A: フィラー入りPEEKやPPSなどで最大10 W/(m·K)程度。
  • Q: 表面仕上げで熱伝導率は変わる?
    A: 変化は微小(数%)で、厚み・素材が支配的です。

まとめ

熱伝導率 k を正しく把握し、フーリエの法則を活用すれば、放熱・断熱設計の精度が高まります。
特に常温〜200 ℃では素材による伝熱性能の違いが顕著であり、用途に応じた材料選定が機械設計の成否を左右します。

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