金属の表面処理の特徴 - FACTY合同会社

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金属の表面処理の特徴

金属の表面処理の特徴と選定ガイド(電子部品向け)

電子部品の高信頼性化には、金属の表面処理を適切に選択し、その特徴を理解して設計に反映させることが不可欠です。本稿では、中堅エンジニアが即戦力として活用できるよう、代表的な処理—ニッケルめっき、各種アルマイト、フッ素コーティング、DLC—を評価軸別に比較し、使用環境と合わせた選定ポイントを解説します。

電子部品における表面処理の役割

  • 耐食性向上による長期信頼性確保
  • 電気導通性・絶縁性の付与
  • 硬度・耐摩耗性の向上による摺動寿命延長
  • 耐熱性の強化によるリフローはんだ付け適合

主要表面処理のメカニズムと特長

ニッケルめっき(電解 Ni)

光沢剤を添加した酸性浴で析出させる電析膜。
優れたバリア性により耐食性と電気導通性を両立。
硬度は母材+析出条件で変化し、HV \approx 200\!-\!350

硬質アルマイト(硫酸陽極酸化皮膜)

Al 基材を H_2SO_4 電解し、緻密な \gamma\text{-Al}_2\text{O}_3 を生成。
絶縁性が高く、摺動部には封孔+潤滑剤含浸で耐摩耗性を付与。

通常アルマイト

装飾・防錆目的の標準皮膜。硬度は硬質タイプより低いが軽量。
カラーアルマイトはレーザーマーキングと親和。

フッ素コーティング(PTFE 系)

低表面エネルギーにより凝着防止。
接触抵抗は高く絶縁用途向き。膜硬度は低いが摺動係数 \mu \approx 0.05

DLC(Diamond-Like Carbon)

プラズマ CVD により sp^3/sp^2 混在のアモルファス膜を形成。
極めて高い硬度 HV \gt 2000 と低摩擦を実現し、高温真空環境でのガスアウト低減。

性能評価軸と計算式

電気導通性: 接触抵抗は

    \[ R_c = \rho \frac{L}{A} + R_f \]

で評価し、\rho は母材抵抗率、R_f は表面膜の抵抗です。

硬度: ビッカース硬度は

    \[ HV = 1.854 \frac{F}{d^2} \]

F:試験荷重 [N]、d:対角長 [mm])で算出します。

代表的な使用環境条件

  • 使用温度範囲:-20 ℃~80 ℃
  • 腐食環境:塩水噴霧 96 h、湿度 95 %RH
  • 電気条件:通電 0.1 A、接触抵抗許容 10 mΩ
  • 摩耗試験:往復摩耗 10 N、総距離 100 m

性能比較表(代表数値例)

表面処理膜厚
(µm)
耐食性
塩水噴霧 96 h
接触抵抗
(mΩ)
硬度
(HV)
摩耗量
(mm³/100 m)
耐熱性
(℃)
ニッケルめっき5白錆なし22500.5150
硬質アルマイト20白錆なし>109 Ω4000.3200
通常アルマイト10微小点腐食>109 Ω3000.7150
フッ素コーティング0.5良好>109 Ω500.1250
DLC1無腐食1020000.05400

追加で考慮すべき設計ポイント

表面粗さ・平滑性

  • 要求粗さ(例:Ra ≤ 0.2 µm)を満たすか、膜が粗さを平滑化/増大のどちらに寄与するかを確認。
  • 高放熱部品やシール面では平滑性が熱抵抗・漏れに直結。
  • アルマイトは孔径が粗さへ影響、DLC は下地研磨で性能が左右される。

密着強度・内部応力

  • 剝離試験(クロスカット/テープ)や4点曲げでピーリング強度を評価。
  • 内部応力が高い膜(DLC、硬質 Cr 代替膜)は母材ひずみ・亀裂リスクを伴うため、膜厚と応力緩和処理を最適化。
  • 多層構造(Ti N / DLC など)で密着層を設けると割れを抑制できる。

コスト・量産性

  • 処理単価は膜厚 × 表面積 × バッチサイズで概算。ロット切替え頻度も加味して総スループットを試算。
  • フッ素系・DLC は設備コストが高いが、工具寿命延長によるトータルコスト低減効果が見込める。
  • リーン工程設計:めっき ⇒ 焼付 ⇒ 組立の前後工程同期によりタクト短縮。

まとめ:表面処理選定フロー

  1. 主要5軸(耐食・導通・硬度・摩耗・耐熱)と追加3軸(粗さ、密着、コスト)を定量化。
  2. 候補処理をマトリクス評価し点数化。
  3. コスト・サプライチェーンを掛け合わせ実行案を決定。

多面的なチェックにより、電子部品の信頼性と量産性を同時に高められます。

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