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金属の表面処理の特徴
金属の表面処理の特徴と選定ガイド(電子部品向け)
電子部品の高信頼性化には、金属の表面処理を適切に選択し、その特徴を理解して設計に反映させることが不可欠です。本稿では、中堅エンジニアが即戦力として活用できるよう、代表的な処理—ニッケルめっき、各種アルマイト、フッ素コーティング、DLC—を評価軸別に比較し、使用環境と合わせた選定ポイントを解説します。
電子部品における表面処理の役割
- 耐食性向上による長期信頼性確保
- 電気導通性・絶縁性の付与
- 硬度・耐摩耗性の向上による摺動寿命延長
- 耐熱性の強化によるリフローはんだ付け適合
主要表面処理のメカニズムと特長
ニッケルめっき(電解 Ni)
光沢剤を添加した酸性浴で析出させる電析膜。
優れたバリア性により耐食性と電気導通性を両立。
硬度は母材+析出条件で変化し、。
硬質アルマイト(硫酸陽極酸化皮膜)
Al 基材を 電解し、緻密な
を生成。
絶縁性が高く、摺動部には封孔+潤滑剤含浸で耐摩耗性を付与。
通常アルマイト
装飾・防錆目的の標準皮膜。硬度は硬質タイプより低いが軽量。
カラーアルマイトはレーザーマーキングと親和。
フッ素コーティング(PTFE 系)
低表面エネルギーにより凝着防止。
接触抵抗は高く絶縁用途向き。膜硬度は低いが摺動係数 。
DLC(Diamond-Like Carbon)
プラズマ CVD により 混在のアモルファス膜を形成。
極めて高い硬度 と低摩擦を実現し、高温真空環境でのガスアウト低減。
性能評価軸と計算式
電気導通性: 接触抵抗は
で評価し、 は母材抵抗率、
は表面膜の抵抗です。
硬度: ビッカース硬度は
(:試験荷重 [N]、
:対角長 [mm])で算出します。
代表的な使用環境条件
- 使用温度範囲:-20 ℃~80 ℃
- 腐食環境:塩水噴霧 96 h、湿度 95 %RH
- 電気条件:通電 0.1 A、接触抵抗許容 10 mΩ
- 摩耗試験:往復摩耗 10 N、総距離 100 m
性能比較表(代表数値例)
表面処理 | 膜厚 (µm) | 耐食性 塩水噴霧 96 h | 接触抵抗 (mΩ) | 硬度 (HV) | 摩耗量 (mm³/100 m) | 耐熱性 (℃) |
---|---|---|---|---|---|---|
ニッケルめっき | 5 | 白錆なし | 2 | 250 | 0.5 | 150 |
硬質アルマイト | 20 | 白錆なし | >109 Ω | 400 | 0.3 | 200 |
通常アルマイト | 10 | 微小点腐食 | >109 Ω | 300 | 0.7 | 150 |
フッ素コーティング | 0.5 | 良好 | >109 Ω | 50 | 0.1 | 250 |
DLC | 1 | 無腐食 | 10 | 2000 | 0.05 | 400 |
追加で考慮すべき設計ポイント
表面粗さ・平滑性
- 要求粗さ(例:Ra ≤ 0.2 µm)を満たすか、膜が粗さを平滑化/増大のどちらに寄与するかを確認。
- 高放熱部品やシール面では平滑性が熱抵抗・漏れに直結。
- アルマイトは孔径が粗さへ影響、DLC は下地研磨で性能が左右される。
密着強度・内部応力
- 剝離試験(クロスカット/テープ)や4点曲げでピーリング強度を評価。
- 内部応力が高い膜(DLC、硬質 Cr 代替膜)は母材ひずみ・亀裂リスクを伴うため、膜厚と応力緩和処理を最適化。
- 多層構造(Ti N / DLC など)で密着層を設けると割れを抑制できる。
コスト・量産性
- 処理単価は膜厚 × 表面積 × バッチサイズで概算。ロット切替え頻度も加味して総スループットを試算。
- フッ素系・DLC は設備コストが高いが、工具寿命延長によるトータルコスト低減効果が見込める。
- リーン工程設計:めっき ⇒ 焼付 ⇒ 組立の前後工程同期によりタクト短縮。
まとめ:表面処理選定フロー
- 主要5軸(耐食・導通・硬度・摩耗・耐熱)と追加3軸(粗さ、密着、コスト)を定量化。
- 候補処理をマトリクス評価し点数化。
- コスト・サプライチェーンを掛け合わせ実行案を決定。
多面的なチェックにより、電子部品の信頼性と量産性を同時に高められます。