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ねじの締め付けトルク計算
ねじの締付トルク計算|六角ボルトの基本式・摩擦係数・早見表まで解説
ねじの締付トルクは、適切な軸力(締付力)を得るために重要な設計パラメータです。本記事では、六角ボルト(M3〜M16・強度区分8.8)を対象に、トルク計算式、摩擦係数の影響、締付トルクと軸力の関係、および実務で使える早見表まで、実務で役立つ内容を網羅的に解説します。
締付トルクと軸力の関係|基本式
締付トルク は、ねじ軸方向に発生する軸力
に対して以下の式で近似されます。
:締付トルク [N・mm]
:締付軸力 [N]
:呼び径(ボルトの外径)[mm]
:トルク係数(摩擦など含む。代表値:0.15)
この式は実務上の簡易式であり、摩擦係数やねじの寸法に応じて変動します。
摩擦係数と締付トルクへの影響
トルク係数 は、主に以下の2つの摩擦要素から構成されます:
- ねじ山の摩擦(スレッド摩擦)
- 座面の摩擦(ベアリング面)
代表的な摩擦係数の目安:
潤滑状態 | 摩擦係数(μ) | トルク係数(K)の目安 |
---|---|---|
乾燥 | 0.20 | 0.20 |
軽く油を塗布 | 0.15 | 0.15 |
モリブデングリス等 | 0.12 | 0.12 |
軸力の目安|降伏点に対する締付力
一般的に、軸力はボルト材料の降伏点に対して60%〜75%の範囲で設計されます。
強度区分8.8の場合、降伏応力は約640 MPaなので、許容軸力 の計算例は以下の通りです。
:降伏応力(640 MPa)
:有効断面積 [mm²](※JIS B 1051参照)
- 安全率:0.6〜0.75(60〜75%)
実務で使えるトルク計算例(M8)
M8ボルト(強度区分8.8)を例に、軸力とトルクを計算します。
- 呼び径
- 有効断面積
- 降伏応力
- 目標軸力(70%):
- トルク係数
トルク:
ねじサイズ別|締付トルク早見表(8.8級・K=0.15)
ねじサイズ | 有効断面積 ![]() | 目安軸力(70%)[N] | 締付トルク [N・m] |
---|---|---|---|
M3 | 5.03 | 2,261 | 1.0 |
M4 | 8.78 | 3,932 | 1.8 |
M5 | 14.2 | 6,390 | 3.2 |
M6 | 20.1 | 9,009 | 5.4 |
M8 | 36.6 | 16,397 | 19.7 |
M10 | 58.0 | 25,984 | 38.9 |
M12 | 84.3 | 37,786 | 67.9 |
M16 | 157 | 70,336 | 169.6 |
締付作業の実務ポイント|トルクの再現性と作業方法の違い
締付トルクが理論上わかっていても、それを現場で確実に再現するには適切な作業方法とツールの選定が必要です。ここでは代表的な3つの締付方法について、実務上の特徴と注意点を解説します。
1. 手作業による締付
モンキーレンチやスパナなどを用いた手作業締付は、もっとも簡便ですがトルクの再現性に欠けます。特に小径ねじでは「締め過ぎ」や「緩み」が発生しやすく、作業者の経験に大きく依存します。
- メリット:工具が簡便/コストが低い
- デメリット:トルクの再現性が悪い/記録ができない
- 注意点:重要部品・再使用不可部品では避けるべき
2. トルクレンチを使った締付
トルクレンチは設定トルクに達すると「クリック」などで通知し、狙ったトルクで締付が可能です。定期的な校正が必要ですが、手作業と比較して精度・再現性が大幅に向上します。
- クリック式:設定トルクに達するとクリック音で知らせる
- プレセット式:事前にトルク設定、繰返し作業に向く
- デジタル式:トルク値を表示/記録できる(トレーサビリティ確保)
校正周期の目安: 6ヶ月〜1年に1回(JIS B 4652準拠)
3. 自動機・電動ツールによる締付
トルク制御機能付きの自動ドライバやロボット締付装置を使用する場合、最も高精度な締付が可能です。トルクフィードバック・NG検出・データ記録など高度な制御が可能で、量産・品質保証に最適です。
- メリット:高再現性/品質トレースが可能
- デメリット:装置コストが高い/初期調整が必要
- 代表ツール:DC電動ドライバ/パルスツール/多関節ロボット
締付方法の比較表
締付方法 | トルク精度 | 再現性 | コスト | 記録・管理 |
---|---|---|---|---|
手作業 | 低 | × | ◎(安価) | × |
トルクレンチ | 中〜高 | ○ | ○(中程度) | △(一部記録可能) |
自動締付装置 | 高 | ◎ | △(高価) | ◎(記録・管理に最適) |
用途や求められる品質レベルに応じて、最適な締付手段を選定することが重要です。特に設計段階で必要トルクと許容誤差を明確にしておくことで、作業方法の選定と品質管理が一貫して行えます。